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  • 執筆者の写真KEITOH HANAMURA

なんでもない深夜

 もし、次すれ違ったのが女だったら、抱きついて、上をひん剥いて、食らいつくみたいなキスをしてやろう。何、何とロウバイしている間に裏道へ逃げ込んで、ぐるぐる回ってからマンションへ帰るのだ。どんな女かな。蒼井優みたいな子だったらいいな、できれば「花とアリス」のころの蒼井優。あの人はキスされたらどんな声を漏らすのだろう、というか、突然キスされるシチュエーションなんて見たことがないから、想像つかない。


 ……なんて、できるはずないんですけどね。焼き鳥屋の前ですれ違った相手は、脚が細いロン毛の男だった。残念極まりなくてため息が出る。ため息と喉の痰が絡んで咳が出た。がはんごほんって、外灯のおかげでちっとも暗くない


 深夜は犯罪チックなことが浮かんでしまう。笑いながらやってくる男女を蹴飛ばしたい。閉店したラーメン屋のガラスをぶち破りたい。家へ帰る自転車メガネ女を転ばせたい。バスの待合ベンチで眠る男の頭にかかと落としをかましてやろうか。これらが現実に投影されないのは、倫理からではなく、寒いから。寒いと体を動かすのが嫌になる。コンビニへコーラとスナックを買いに出かけたのも、行こうか、行くまいか、十分以上も悩んでようやくだった。


 しょうもない妄想はやめて帰ろう。毛布が待っている。

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